2009/12/06

once ダブリンの街角で

2007年に日本での映画館で上映され、2008年にDVDとして発売されている作品。

アメリカでも当初は2館の上映だったが、口コミによりその後140館にまで拡大上映され、第80回アカデミー賞歌曲賞、2007年サンダンス映画祭ワールドシネマ部門観客賞、2007年ダブリン国際映画祭観客賞など、世界中の映画祭で受賞している。

父親の経営する店で掃除機の修理をしながら、ダブリンの街頭で弾き語りをして暮らしている男と、花や雑誌を売りながら娘と母親とつつましく暮らす女。

男の弾き語りを聴き、女が話し掛けたことから二人の関係は始まる。

男はずっと別れた女性のことが忘れられず、過去の想いを引きずってそれらを歌にしている。

二人の生活はけっして豊かではなく、特に女の生活はぎりぎり。
だからこそ、音楽は希望をもたらす。

ピアノが家にない女は楽器店の昼休みの間に、店の人の好意でピアノを弾かせてもらっている。
そこで二人は、男のオリジナル曲を男はギターで、女はピアノで一緒に演奏する。
音楽を通して二人の気持ちは少しずつ通じ合う。

この映画は男の弾き語りのシーンでスタートするが、初めの5分を観ただけで、素晴らしい映画だと多くの人は感じるだろう。
音楽の素晴らしさは、それらがどういう背景で生まれ、作り手がどのような想いで創作したのか、というところに全てがかかっていると私は思う。
表現しなければ居ても立ってもいられない、そんな状況がいくつもの傑作を生み出す。
そういったことを改めて思い出させる映画だ。

この男の歌う音楽がなぜここまで聴く人の心を揺さぶるのか。
それは、失恋から立ち直れない、いつまでも女々しい男がありのままの想いをさらけ出しているからだろう。
誰しもそんな経験はあり、過去の自分がフラッシュバックする。
もしくは、失恋の真っ只中という人もいるだろう。

普段はこういったシンガーソングライターの曲や哀愁漂うような曲は進んで聴かない私だが、この映画で歌われる曲はどれも胸に響いてきた。
それは、繰り返すようだが、男の渾身の想いが込められているから。

特に大きな変化のなかった生活が、音楽によって変わり始める。
作った曲に歌詞を付けてほしいと頼まれた女は、男の作った曲を聴くために夜中に電池が切れてしまったプレイヤー用の電池を買いに行く。
このシーンが印象的だ。
娘と母親と暮らすのがやっとの、毎日細々と生きてきた女が、自分のための楽しみを見つけ、熱中している。

惹かれあう二人だが、女は結婚している。
男も別れた女に再び会いに行こうとロンドンへ旅立つ決意をする。
そして、男は旅立つ前に女を誘ってレコーディングをする。

この二人は関係を結ばずに、お互いの道に進んだ。
けれど、二人の出会いと二人が過ごしたわずかな時間は共に一生の思い出になる。
女性が結婚していなければ、違っていただろう。

このような出会いは普通に暮らす私たちの周りにもあるだろう。
結婚はとても強力な拘束力を持つ。
それが良いとも悪いとも言えない。
けれど、この映画の女はとても現実的で理性を持って男に接した。

男は時に理性を失いがちになる。
その時を楽しむ、一期一会の出会いだから、と身を委ねることもロマンティックだ。
けれど、現実的に二人に先がなければ、感情に流されずに踏みとどまる方が美しい思い出となることもある。

男と女は関係を結ばなくても、気持ちを通わせることができる。

大げさなストーリー展開はない。
誰にでも起きうる日常の出来事を鮮やかに映し出した素晴らしい作品。

大人になったからこそ、胸に響く映画だ。

そして、音楽好きなら必見。

主演のグレン・ハンサードはアイルランドのロックバンド、The Framesのヴォーカルで、今作が初主演映画となっている。
この映画で彼の歌声に胸を打たれた人はThe Framesも聴いてみては。
アイルランドのバンドらしい、壮大で叙情的なメロディー、魂のこもったヴォーカルは、日本人にも馴染みやすいと思う。













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